腹痛とは
腹痛は日常生活でもよく見られる症状の一つですが、中には治療を要する病気のサインである場合もあります。一般的には胃や腸(胃・十二指腸・小腸・大腸など)の消化管が原因と考えられがちですが、お腹には他にも膵臓・胆のう・肝臓といった消化器、腎臓・尿管・膀胱といった泌尿器、さらには女性の場合は子宮や卵巣などの生殖器もあり、さまざまな臓器の疾患が腹痛を引き起こす可能性があります。また、腹部には太い血管も通っており、血管の病気が原因で痛みが生じることもあります。
腹痛は一時的なもので、安静にすることで治まる場合もありますが、なかには緊急の対応が必要なケースもあり、見逃すと命に関わる可能性があります。腹痛は体が何か異常を知らせているサインでもあるため、痛みが長引く場合や強い痛みがある場合は、早めの受診をおすすめします。
早めの医療機関受診が必要な腹痛のサイン
次のような症状がみられる場合には、できるだけ早く医療機関を受診してください。
- 突然、強烈な腹痛に襲われた
- 痛みが長時間続いている
- お腹の特定の箇所に強い痛みを感じる
- 徐々に痛みが悪化している
- 痛みが移動する
- 血便、粘液混じりの血便、黒い色の便が出る
- 発熱を伴っている
- 冷や汗やめまいといった貧血のような症状がある
- 血圧が下がっている
- 嘔気嘔吐や下痢の症状がある
これらの症状がある場合、重大な疾患が隠れている可能性があります。たとえば、急に起こる激しい腹痛は、腹部の血管(腹部大動脈や上腸管膜動脈)に関する緊急事態(閉塞や破裂)を示していることがあります。女性の場合、子宮外妊娠や卵巣(捻転)の病気も疑われます。
また、血便や粘血便は潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患や出血性大腸炎、の可能性があり、黒色便は胃や十二指腸での出血が疑われ胃潰瘍や十二指腸潰瘍、急性胃粘膜病変などが考えられます。貧血症状を伴う場合、内出血や重篤な潰瘍、がんなどが背景にある可能性もあります。
さらに、感染性胃腸炎などによる嘔吐・下痢があると、急速に脱水が進行し急性腎不全など危険な状態になることがあります。特に高齢者や基礎疾患をお持ちの方は重篤化しやすい傾向にあります。また、腹痛に加えて便秘・下痢・血便・粘血便・体重減少などがある場合は、大腸がんの早期症状であることも。進行する前に発見し、適切な治療を行うためにも、少しでも異常を感じたら早めに消化器内科を受診しましょう。
腹痛を引き起こす主な疾患
腹痛は、腹部のさまざまな臓器から生じる可能性があり、痛みの部位によって原因となる疾患が異なります。ここでは上腹部・下腹部に分けて代表的な病気をご紹介します。
上腹部の痛み
逆流性食道炎
胃酸が食道へ逆流し、胸やけや胃もたれ、みぞおちの痛みなどが現れます。特に胃酸の濃度が高くなる空腹時や朝方に症状が強くなるのが特徴です。
急性膵炎
膵臓に突然炎症が起こる病気で、上腹部の激しい痛みに加え、背中にまで痛みが放散するのが特徴です。アルコールや胆石が原因となることが多いです。重症化すると、命に関わるため、早急な診断と適切な治療が必要です。
胃・十二指腸潰瘍
胃や十二指腸の粘膜に傷ができる疾患です。みぞおちの痛み、黒い便(タール便)、食後や空腹時の腹痛などが見られます。
急性虫垂炎(盲腸)
はじめはみぞおち周辺が痛み、時間とともに右下腹部へと痛みが移動します。吐き気や発熱を伴うこともあります。はじめは急性胃腸炎に似た症状が出るため、注意が必要です。
下腹部の痛み
尿路結石
尿の通り道にできた石が尿管につまると、背中からわき腹にかけて突発的に激しい痛みを引き起こします。吐き気や血尿が見られることもあります。
感染性胃腸炎
ウイルスや細菌が原因で発症し、腹痛、下痢、嘔吐、発熱などの症状が急激に現れます。多くは、適切な治療で数日で改善します。食中毒の原因であるノロウイルスやカンピロバクターなども含まれます。
過敏性腸症候群(IBS)
ストレスや腸の過敏性が原因で、慢性的な下痢・便秘・腹部膨満感が繰り返されます。症状が強く出る場合や長期間続く場合は診断と治療が必要です。
膀胱炎
細菌感染によって膀胱に炎症が起きる疾患です。下腹部の痛み、排尿時の痛み、頻尿、残尿感などが見られます。
腹痛の原因は多岐にわたり、中には早急な治療を要する疾患もあります。「いつもと違う」と感じたら、我慢せずにご相談ください。
腹痛の検査方法
胃カメラ検査
胃カメラは、食道・胃・十二指腸の粘膜を観察し、炎症、潰瘍、がんなどの病変を確認します。腹痛の原因として疑われる疾患があれば、検査中に組織を採取して生検を行うこともできます。早期のがん発見に非常に効果的な検査です。また、胃カメラを行い器質的な異常を認めない場合は上部消化管機能障害と判断することが可能で、腹痛の診断治療に関して有用な検査です。
大腸カメラ検査
大腸カメラでは、大腸の粘膜を直接観察し、虚血性腸炎や感染性腸炎、潰瘍性大腸炎やクローン病など、腹痛を引き起こす疾患を調べます。症状によっては、ポリープやがんの早期発見にも役立ちます。また、大腸カメラを行い器質的な異常を認めない場合は下部消化管機能障害と判断することが可能で、腹痛の診断治療に関して有用な検査です。
腹部エコー検査
超音波を用いて、肝臓、膵臓、胆のう、腎臓、膀胱などの臓器を観察する検査です。腹痛が内臓に関連している場合、エコー検査で疾患を発見できることがあります。例えば、胆石や膵炎、肝炎、膵がん、胆管がん、肝臓がんなどの診断が可能です。
血液検査
血液検査では、炎症の指標や貧血の有無、腹部臓器の異常などを調べます。腹痛が感染症や出血・貧血、臓器障害、腫瘍性病変などの影響による場合に有用です。血液の状態を把握することで、疾患の進行具合や腹痛の原因を特定する手がかりになります。
腹痛の原因を早期に特定し、適切な治療を行うことが大切です。症状が続く場合は、これらの検査を受けることで安心にもつながります。
腹痛を放置せず、早めにご相談ください
たとえ命に関わるような疾患でも、早期に発見できれば治療によって完治が期待できるケースも少なくありません。さらに、適切なタイミングで治療を受けることで、不快な症状が軽減され、日常生活の質(QOL)も大きく改善します。
慢性的に腹痛が続く方は、消化器内科で専門的な検査と診断を受けましょう。当院では消化器疾患が疑われる腹痛症状の場合には、胃カメラ検査や大腸カメラ検査、腹部エコー検査、血液検査などの高度な検査・診療を行っています。
腹痛は、市販薬で痛みをごまかしてしまうと、かえって病気の進行に気づかず、治療が遅れる恐れもあります。「いつもとは違う痛み」「繰り返す腹痛」「何かがおかしい」など、気になる症状がある場合は、痛みを我慢せずに気軽にご相談ください。